リタの不意打ちのような問いかけに、俺はつい考えもなく頷いてしまった。
「知ってる」
「嘘だぁ。言っとくけどクセルルクスは帝国じゃないよ? 王国だよ? 王国と帝国の違いとかちゃんとわかって言ってる?」
何百年前の話か理解しているのかと問われれば『理解している』と答えられるだろう。うっかり古文書を読み進めた後遺症だ。俺はいつの間にかドミトリーのように古文書の内容を少しは暗唱できるようになってしまっていたようだった。
「まあな」
「本当? ちゃんと聞いてた? どの歴史書にもセブンス連合がクセルルクス王国と手を組んだなんて記述はないわよ? あ、そもそもセブンス連合っていうのは……」
「セブンス連合も知ってる。大丈夫だ」
「そう。案外勉強家なのね」
「それよりそのお宝の話、誰に聞いたか確認してもいいか?」
「ドミトリーっていう変人の知り合いがいて、教えてくれたのよ」
「やっぱりあいつの知り合いかよ!」
「へえ、あんたも知り合いなんだ。でね、そいつがフォレストアイランズには隠された歴史があるって言っててさ。トレジャーハンターとしてはそんな話、放っておけないじゃない」
「それでお宝の話を信じたってわけか?」
「そうよ。クセルルクス王国には女王のリューシャ、その弟で宰相のルスラン。彼らに次ぐ権力者として副宰相がいたの。名前は確か、えーと」
「クラウジー・ロマノフスキーだな」
「あんた、本当に勉強家ね。まあいいわ。で、その副宰相がセブンス連合から贈られた秘宝をフォレストアイランズのどこかに隠したって伝説があるの。それを探すのがあたしの目標。本当はのんびり石なんかを運んでる暇なんてないんだから」
「石なんかっていうなよ。俺たちの商売道具だぞ」
「お宝を見つけて一躍大金持ちになったら、あたしをたたえる彫像を作らせてあげるわ」
「そりゃありがたいね。おっと、応援が来たみたいだな」
通りの向こうに見知った弟子仲間たちの顔を見つけて、俺たちは話を切り上げた。
「さあ、仕事だ仕事だ。俺はお宝よりのんびり晩酌できるほうがいい。俺のためにもさっさと荷下ろしは終わらせるさ」
こうして俺は、いつも通りに仕事を終えて、いつものように酒場に向かう。
いつもと違ったのは二つだけ。
仕事の終わりにリタが酒場に付き合ってくれたことと――
酒場の店主に、ドミトリーが死んだことを伝えられたことだけだった。
(続く)