何かの間違いだと信じたいが、そんなことはないだろう。
きっとこの本のせいだ。
酒の席で知り合った新しい友人から預かった手書きの本。
そいつは先祖代々歴史学者の家系に生まれたと言っていた。
そいつ自身も歴史学者で、フォレストアイランズの秘められた過去を紐解いて見せるのだと意気込んでいた。
実際、口ばかりではなく、そいつは何度も新解釈の歴史書を書きあげて、何度も発禁処分を受けていた。
彼が何度も書き直しては出し直し、これこそが本当の歴史なんだと声高に叫んでいたその内容こそが、俺と彼が、これから殺される理由なのだろう。
彼から預かったこの本は、彼の先祖が残したという聞いたこともない歴史の真実が記されていた。
酒飲み友達の先祖の言葉がどこまで信用できるかなんてわからない。
もしかしたら本当のことが書いてあるのかもしれないし、下手をすれば全部の記述が誰かの妄想なのかもしれない。
だが、おそらくその記述の一部に、どこかの大国かあるいは英雄の誰かにとって絶対に放置できない何かの秘密が書かれているのだろう。
そうでなければ、本を、そして本の内容を知る俺を殺すために、こんな大掛かりな追跡戦をするはずがない。
酒の席で俺は、確かにそいつから古文書の内容を聞いた。
だが酒の席だ。話半分だったし、内容なんて何ひとつ覚えては……。
いや……何ひとつ覚えていないなんてのは嘘だ。
だからこうして俺は追われていて、その秘密ごと消されようとしている。
だが、秘密とはなんだ。
飲み友達と話した歴史の何が誰の逆鱗に触れたんだ?
大きな衝撃が船全体を揺らした。
背の高い森の木々にピッコラの船体の底が引っかかったのかもしれない。
墜落はもう止められない。
森の木々かクッションになればとは思うが、その期待はあまりに楽観的だ。
おそらく俺は死ぬだろう。誰かが命がけで隠そうとした、この世界を根底からひっくり返すような大きな秘密とともに。
だからこそ知りたい。
墜落して何もかもが消え去る前に、せめて誰が、何を隠そうとしていたのか確かめたい。
書かれた記述をそらんじられるほど、本の内容は覚えてしまっている。
だが、どこかに読み落としはなかっただろうか。操縦系から離れ、すっかり放置されていた本のページを開く。
「そんなにまでして隠さなければならない歴史が……本当にこの中にあるんだろうか……?」
(続く)